安心できる猫のおうち。関川村「猫ちぐら」のこれまでとこれから。
ものづくり
2020.08.15
看板猫も常駐。道の駅の新たな拠点で、制作を公開しながら運営。
猫好きの間ではすでに有名な民芸品「猫ちぐら」。稲わらで編まれた猫の住処・寝床の一種で、最近ではあの人気バンド・スピッツの最新シングル曲でも、幸せな暮らしの象徴として歌われています。いくつかある産地の中で県北・関川村の猫ちぐらは、以前から全国ネットの人気テレビ番組や全国紙などでも度々取り上げられ、最盛期には出荷まで数年待ちとなるほど注文が殺到していました。村内の道の駅にある観光情報センターでは現在、地元の作り手たちが村外不出の製法で猫ちぐらを編んでいる様子を見学することができます。今春から同施設は、さらに実演スペースを拡張して「にゃ~む」と名付けられ、看板猫も常駐するように。同施設で制作に励む「関川村猫ちぐらの会」の方に話を伺ってきました。


関川村猫ちぐらの会
長 三次 Sanji Cho
1941年生まれ。猫ちぐらの生産と販売を手掛ける同会の会長。十数年前に入会し、役員を経て昨年から会長に。作り手としての腕前も折紙つきで、丈夫で長持ちする猫ちぐら作りに定評がある。会としては今年、村から自治功労の感謝状も受けた。

伊藤 マリ Mari Itoh
1947年生まれ。会事務局。村の公社職員として黎明期から会の運営に携り、一時は異動で離れるものの退職を機に自身も会員のひとりに。作り手としてだけでなく、取材対応から施設の運営、事務経理まで何でもこなし、会の心臓部として活躍する。

さくら Sakura
推定1歳、キジトラの雌で「にゃ~む」に常駐する看板猫。今春、村上市内の幹線道路沿いに傷だらけで彷徨っていたところを伊藤さんの知人が保護・看病し、伊藤さんが譲り受けた。現在は全快し、人懐っこく甘えん坊な性格を存分に発揮して会員や来館者から愛されている。保護された時から左前足の先が無い。
品質確保のため、1個作るのに1週間。最長で6年待ちの時期も。
――本日はよろしくお願いします。かつては数年待ちの状態もあったと聞いていますが、今現在は注文から出荷まではどれくらいかかるのでしょう。
伊藤さん:現在であれば、注文から4ヶ月後くらいにお届けできます。お待たせしてしまうことに変わりはなく心苦しいのは同じですが、以前に比べればかなり落ち着いてきました。
――ちなみに最長では何年待ちだったんですか?
伊藤さん:5年ほど前、6年待ちになったことがあります。全国ネットの人気テレビ番組で紹介されたりすると本当にすごくて、放送があってから何日かは注文の電話が鳴り止まず、メールもどんどん入ってくるような状態になりました。一番すごかった時は、パソコンを開くのが怖かった…(苦笑)。
長さん:子機を置く暇もないくらい注文の電話がかかってくるので、子機の充電が切れたなんて話もあります。
――…それはすごい。
伊藤さん:それでもどんなにがんばっても作り手1人あたり1週間で1個作るのが限界ですし、品質をないがしろにするわけにもいかないので、気長に待っていただくしかないのが現実です。
――5年ほど前に6年待ち、ということは、つまり現在作っているのも当時注文を受けたものということでしょうか?
伊藤さん:いえ、確かにテレビで紹介されると一時的に注文は殺到しますが、そういう時の注文は後になってキャンセルされることも少なからずあるんです。なので実際は、注文時の待ち期間よりも早くお届けできる場合もありますね。

ルーツは子守用の籠。村おこしのため有志が特産品化。
――作り手の会員さんは現在、何人いらっしゃるんですか?
伊藤さん:現在は31歳から85歳まで、28人います。最も多かった時では、平成2年に52人いました。女性が中心ですが、会長のように男性の作り手もいます。村内でもともとこの猫ちぐら作りを始めたのも、男性でしたし。
――そもそも猫ちぐらのルーツは?
伊藤さん:もともとは「ちぐら」、「つぐら」という子守用の籠なんです。昔の農家では農作業や家事の最中、それに子どもを寝かせ、目を配りながら仕事をしていたそうです。冬の農閑期を利用して、身近な稲わらを材料に手作りしていた生活用品のひとつだったんですね。
長さん:昔の農家では、「ちぐらを一晩で編めれば一人前」なんてことも言われていたようです。
――子ども用が猫用になったきっかけみたいなものはあるんですか?
伊藤さん:戦後、村代々の名家・渡邉家で働いていた本間重治さんという方が、同家の玉三郎という愛猫のために作ったのが、現在のようなかまくら状のものの始まりと言われています。それ以前から村のどこかの農家にはすでに近いものがあって、本間さんはそれをヒントに作った可能性もありますけどね。その後、村を訪れたある女優さんが、村にこれといった民芸品がないことを嘆く声を聞いた際、渡邉邸で見た猫ちぐらを思い出して「ちょうどいいのがあるじゃない」と推したそうです。それで昭和50年代中ごろから、村おこしを考えていた有志が村特産の民芸品として作るようになりました。作り手たちが集まり当会が発足したのは昭和60年になります。
――バブル真っ只中のころですね。
伊藤さん:そうですね。好景気に加えペットブームもあったので、全国のテレビや新聞、雑誌などに度々取り上げられ、どんどん注文が入り、会員も増えました。ただ、以後しばらくすると景気後退とともに右肩下がりが続き、注文のない月もあったりして、公社職員として会の経理をやっていた私個人も別のところへ異動になったりしました。再び人気に火が点いたのは2005年ころです。
――何かきっかけがあったのですか?
伊藤さん:それもまたテレビですね。全国ネットのゴールデンタイムに放送されていた人気番組で取り上げられたんです。その日からしばらくは、冒頭でお話したような状態に…。
――…お察しします。
伊藤さん:以後はどこかのメディアに取り上げてもらえる度に注文が増え、しばらくすると落ち着き、また増え…という感じです。最近は割と安定しているというか、落ち着いています。

夏は涼しく、冬は暖かく。作り方は村外不出も、道の駅で制作を実演。
――聞くのが遅くなってしまい恐縮ですが、関川村の猫ちぐらの特長を教えてください。
伊藤さん:何といっても、天然のコシヒカリの稲わら100%だからこその快適性だと思います。ご存知の通り中が空洞で、通気性と保温性を兼ね備えた素材といえる稲わらで編んだ猫ちぐらは、夏は涼しく冬は暖かく、内部は猫にとっても理想的な環境といえるのではないでしょうか。コシヒカリにこだわっているのはしなりが良いからで、会では厳選した特にきれいな稲わらをたっぷり使い、村外不出の製法で編んで作ります。「大」(直径40cm×高さ34cm)であれば、だいたい20~30把くらいは使います。編み目のきれいなしっかりした作りで、閉所を好む猫にとっても安心感があると思います。また、編み上げた後は全てツヤ出しと殺虫のため特別な仕上げ処理をしています。
――作り方は村外不出なんですか?
伊藤さん:そうなんです。作り手となるには、まず村民であることが条件です。もちろん、移住されてきた方も大歓迎ですが。品質を維持していくためには、村でしっかり指導を受けてもらう必要があるからですね。作り手としては、特別な器用さよりも、根気や向上心の方が重要かもしれません。早い人では、習って2、3個目でもう商品として出せるくらい品質の高いものを作る方もいます。
――編み方に秘伝のコツのようなものはあるんですか?
長さん:一番の肝は力加減かもしれません。がっとに強く編めばしっかりしたものができるというわけでもなく、全体的なバランスを考えて編まないと、デコボコしたいびつな形になってしまいます。ここはどの位の力加減で編めばきれいにいくか見極めるのは、長年の勘に拠るところが大きいですね。あと、猫ちぐらは底から上方へ積み上げるように編んでいくのですが、底の形がきれいに丸く決まると、上部もきれいにいくことが多いです。
――作り方が村外不出な一方で、道の駅では以前から制作の実演が見学できるんですね。
伊藤さん:10年ほど前から始めました。来訪者の目を楽しませるのはもちろんのこと、普段は家で黙々と作っている会員の交流や後継者の育成も目的です。最初はその名も「ちぐら」という物産販売をしている施設の一角でやっていたのですが、手狭になってきたので5年くらい前に現在の観光情報センターに移ってきました。また今春からは同センターにあった公社の事務所が別の場所へ移ったので、そのスペースも改装し「にゃ~む」として利用・開放しています。看板猫の「さくら」もいますよ。

課題は高品質な材料の確保。猫と飼い主が喜ぶ知らせを励みに。
――現在の課題は、やはり後継者の確保ということになるのでしょうか。
長さん:いや、それもそうですが、現在最も頭を悩ませているのは材料となる稲わらの確保です。村にもコメ農家はたくさんあるので稲わら自体はあるのですが、質の良いきれいな稲わらは確保するのがどんどん難しくなってきています。
――というと?原因は?
長さん:単純に機械化が進み、稲を自然乾燥している農家が少なくなったからです。はさ掛けなど天日干しした稲わらは、とてもきれいな色で高品質になりますが、今はなかなか手に入らないので、買い取った稲を自分たちで干したりもしています。秋は車の運転中、はさ掛けされている稲が視界に入ると、飛び込みで稲わらだけを譲ってくれないか交渉しに行ったりもしますね。
――ご苦労されていますね…。今後の展望はいかがでしょう。
伊藤さん:現時点では注文と生産のバランスが割とちょうどよい感じに落ち着いていますが、今後はどうなるか分かりません。いま会長が言ったように、注文があって作り手がいても今度は材料の稲わらが不足するかもしれないですし。とはいえ、長い間お待たせしてやっとお届けできた方から、中に入った猫の写真とともに送られてくる感謝の手紙は、私たちの大きな心の支えです。また昨年度からは、村のふるさと納税の返礼品にもなりました。今後もみなさんに喜んでもらえるよう、ひとつひとつ丁寧に作り、お届けしていきたいと思っています。
――本日はありがとうございました。


■(価格)
猫ちぐら
ミニ(直径20cm×高さ16cm、飾り用) 10,000yen
小(直径30cm×高さ25cm、飾り用) 16,000yen
中(直径35cm×高さ28cm、飾り用) 21,000yen
大(直径40cm×高さ34cm、1匹用) 23,000yen
特大(直径45cm×高さ38cm、2匹用) 26,000yen
お椀型(直径40cm×高さ20cm、子猫の世話や介抱に) 20,000yen
犬ちぐら(出入り口が猫ちぐらに比べ大きめ)
大(直径40cm×高さ34cm、1匹用) 25,000yen
特大(直径45cm×高さ38cm、2匹用) 27,000yen
その他
おひつ入れ 35,000yen
鍋敷き 2,000yen
Advertisement
関連記事
ものづくり, 食べる
食べられる花「エディブルフラワー」を栽培する脇坂園芸。
2019.07.24
ものづくり
カジュアルにいろんな額装が楽しめる「INCH FRAME WORKS」。
2020.02.03
ものづくり
あたたかい気持ちになれるジュエリーを。新潟市北区の「hinata bocco」。
2020.09.20
ものづくり, 食べる
関川村で人気の、うんめぇハムとソーセージ。女川ハム工房。
2019.05.07
ものづくり
ドライフラワーが浮かび上がる幻想的なキャンドル「nimivalo」。
2020.01.19
ものづくり, カフェ
沼垂テラス商店街で夫婦のモノづくりを発信「ISANA」。
2019.06.18



